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「最後の宮大工」たちが語る仕事と人生と人間のこと

『木のいのち木のこころ〈天・地・人〉』西岡常一、小川三夫、塩野米松著/新潮文庫
https://www.shinchosha.co.jp/book/119031/

この本は薬師寺宮大工棟梁であった西岡氏の語る木の心について、聞き書きで収録したもの。西岡氏は、奈良県の斑鳩(いかるが)で生まれ、小学生時代から祖父の宮大工棟梁の元で修行を続けていきます。「わたしに何か話せゆうても、木のことと建物のことしか話せませんで。いっぺんにはむりやから少しずつ、いろんなこと話しましょ」。こんな調子で、目の前で西岡棟梁が話している感じを楽しめます。

木のことを語っているのですが、その向こう側に人の姿が垣間見えます。木は人間と同じで一本ずつが全部違う。それぞれの木の癖を見抜いてそれに合った使い方をしなければ。

「木の癖をうまく組むためには人の心を組まなあきません」

「木は正直やが、人間はそやない。私の前ではいい顔してるけど、かげでどう働いているかわからん。だから、木組むより人を組めと言ったんですな」

「人は仕事をしている時が美しいいいますな。それは人の動きや心に無駄がないからです。建造物も同じですな。機能美というんでしょうな、こういう美しさを」

「環境とか育ち方が木の性質をきめてしまうです。土地によって木の性質が決まってくるんです。間違いありません」

読み進めては何度も戻り、ひとことひとことを味わえます。初めは草思社で出販されましたが、今は新潮社文庫でも入手できます。文庫版では、弟子の小川三夫氏や塩野米松氏の語りも楽しめます。

日本はそもそも紙と木の建造物の国です。鉄が入ってくるまで木のみで立派な社殿を作り、それが地震にも耐えて残っています。その技術や知識をたどれば、忘れられた素晴らしいものが見つかると思い、本書を読み始めました。

読み進めると木の心や技術が人と同じだと気づかされます。自然に逆らう事なく良く観察して良いところを知り、癖を曲げたり無くしたりすることなく育て使っていくのは、人を育てるのと同じだという事です。

日本の気候に合った知識や技術は、人にも充分に適応します。単純に木工の技術や知識に興味を持って読んでいくといつの間にか身近な人間関係のことを一緒に考えている自分に気が付きます。そういう魅力を持っている、おすすめの一冊です。(由)