特定非営利活動法人

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東京/新宿区でピアサポート活動
不登校・ひきこもり家族支援NPO

山小屋という異世界を仕事の場とした若い女性の自由で活き活きとした生き方

『私、山小屋はじめます』
小宮山花著/山と渓谷社 

https://www.yamakei.co.jp/products/2825330850.html

「私」は32歳。2021年新型コロナの最中に、南アルプスの光(テカリ)岳の山頂下にある光小屋の管理人になった4年間の奮闘の記録。

光岳(2539m)は南アルプスの南端にあり、アクセスに半端なく時間がかかる。高速のインターを降りてから2時間弱走り、そこから登山口まで林道を一時間半歩き、やっと登山口。そこから登り始めて光小屋まで8時間を要する。そのため百名山登山を目指す多くの山好きが最後に登る山だ。

「私」はいつもあまり後先を考えない。その時に気持ちが向いた方へ、ふらりと動いてしまう。本人は短所でもあるが長所でもあると思っている。たまに「ああ、ちょっと早まってしまったかな」と自分の決断に不安にもなったりする。でも、それで案外うまくいっちゃうことも多い。

長野県のリンゴ園の長女として生まれ、自然に囲まれて育った。小さな頃から人が集まる場所が苦手だった。一人が好きで、他人にあまり干渉されたくなかった。大学を卒業してから東京で障がい者スポーツの指導者として働いていたが、ふと「山で暮らしたいな」と思った。それからずっと頭からその考えが離れなくなってしまい、職場の先輩との人間関係がうまくいっていなかったこともあり、とにかく東京を離れたかった。山から連想した仕事が山小屋だった。

一人の女性のふと思った決断から、次々と起きる問題と苦闘しながら、来てくれた登山客の記憶に残る山小屋を目指して、山小屋を作り上げていく過程が軽快なタッチで描かれている。

「ヘリ荷上げは15分の勝負」、「問題山積みのランチ営業」など、一つ一つの話題が数ページで、写真も多く、読み始めたら次の話題が読みたくなる、楽しい本だ。(山)