人格を使い分けて、人間関係で「傷つくこと」を減らそう!
『私とは何か 「個人」から「分人」へ』平野啓一郎著/講談社新書
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社会人になり、丸20年が経ち、今まで何度も失敗をして、何度も叱責(ご指導)をいただいてきました。怒られるとやっぱり落ち込みます。「ああ、私はなんでこんなこともうまくできないのだろう」「深く思考できず、上司みたいにいつになったら成れるのだろう……」と自己否定したこと、多々あります。
また、逆に後輩を指導する立場になって、自分が怒ったときは、「ああ、なんであんなことを言ってしまったのだろう」と落ち込み、注意すべきことを注意できなかったときは、「嫌われると思って注意できなかった。先輩失格か」と落ち込みました。
失敗が続き、落ち込んでいる頃、よほど私の表情が暗かったのか、上司から、「仕事の人格で仕事をしなさい」とアドバイスをもらいました。
その方は、仕事に対しては一切の妥協を許さず、論理が通らない案件はすべて否決します。「これくらい、まあ、いいじゃないですか~」と言っても、一切通用しません。真意を聞いてみると、「私の個人のパーソナリティは怠け者。細かいことも雑にやってしまう。そのまま仕事をすると、仕事が雑になる。なので、仕事をするときは、仕事の人格をつかっている。そうすると、仕事で部下に注意するときも、嫌われるとか考えなくてよい。あくまで仕事の人格なのだから……」と教えてくれました。
これを聞いて、なるほどと思いつつ、やはり指導されると「ダメな私」という考えになってしまいます。
そんな中、海外のグループ会社のメンバーと、ルール策定で議論をする機会が数回ありました。議論は、本音ベースで、是々非々で交わしています。海外の方は容赦しません。私の説明で理屈が通らない点には容赦なく反対意見を述べます。議論が白熱して、疲れてきたときに、海外の方が「Let’s have a coffee time♪」と笑顔で一言。休憩時間は明るく談笑をする姿を見て、部長の言っていた意味が腑に落ちました。
ああ、なるほど、仕事とプライベートの人格を使い分ければ、仕事のことも引きずらずに、プライベートの時間を楽しく過ごせる!と。
この感覚を、理論づけてくれているのが、「個人」から「分人」へ、と唱える本書です。
人間のアイデンティティが一つの「個人」という単位で固定されるのではなく、相手や状況に応じて異なる「分人」によって構成されるという新しい自己概念を、この本は提案します。従来の「個人」という概念は、現代社会の複雑な人間関係や多様な役割に適応できないと指摘。そして、「分人主義」を掲げ、個々の人間関係に応じた自己(分人)の存在を認識すれば、他者との関係をより柔軟にストレスなく築けると説きます。
さらに、自己の多様性を認めることで、社会的な役割や期待に縛られることなく、自分らしい生き方を追求するという分人主義の理論的な枠組みを提供しています。
芥川賞作家の手によるこの本は、現代社会における自己のあり方や他者との関係性を深く考察し、新たな視点を提供する一冊です。小説ではないので、没頭する感じではありませんが、頭の中が整理されると思います。仕事や学業、人間関係の失敗を引きずって、自由時間なのに暗い気持ちになってしまう方は、一度読んでみてはいかがでしょうか。(スタッフT)
おまけ:著者の講演会の動画「自己の多様性を生きる」もご覧ください。
https://youtu.be/yyss0igkVx4?si=FW-hVqx8eJIZ1zMc